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中村憲剛が2022年を振り返る【第2回・フロンターレ アカデミー編】

今回は川崎フロンターレアカデミーとの関わり方についてお話したいと思います。

フロンターレのアカデミー関連の活動としては、不定期で富士通スタジアムに行ってU-18の練習を見たり、等々力や麻生で行われるプレミアリーグを観戦したり、回数は少なかったものの等々力第一グラウンド等でアカデミーの試合を観ていました。ただ、平日はもちろんのこと、週末もトップチームやイベント参加、解説業や普及活動含めて多くの活動と被ってしまうことがあるので、アカデミーの全カテゴリーをチェックするのは昨年以上に難しい状況になり、大変申し訳ないと感じております。

その中で、トップに1番近い場所でもあるU-18には昨年同様に関わらせていただきました。U-18はヤスさん(長橋康弘U-18監督)、ベティさん(久野智昭U-18コーチ)、ヒデちゃん(佐原秀樹U-18コーチ)、ガミさん(浦上壮史U-18GKコーチ)、そしてトップチームで長年トレーナーをやっていたイケさん(池田善憲トレーナー)がスタッフとして活動しており、昨年からサッカーの話をたくさんさせてもらっていて、そこは今年も継続という感じでした。それにしても2022年のU-18の快進撃はすごかったですね。昨年のチームは、トップに昇格した五十嵐太陽はじめ3年生が多く出場していたので、新チームで初のU-18プレミアリーグへのチャレンジはどうなるんだろうと思っていましたが、フタを開けてみればプレミアリーグEAST優勝じゃないですか。びっくりしました。改めてスタッフ、選手の皆さん本当におめでとうございます。

快進撃の要因、これはヤスさんも話していましたが、開幕前のトップチームと練習試合ができたのが大きかったと思います。2021年の頭にも練習試合をやりましたから、恒例行事になってきているところがありますが、トップチームとの練習試合をすると何が選手たちにとって良いのか。これは可視化ですね。彼らの中でのトップチームは近いようで遠い存在であり、なかなか生で見ることも、プレーすることもないので、トップチームのイメージがこれまではぼんやりしていたのだと思います。それを実際に練習試合をして体感することで、ぼんやりした輪郭がくっきりと見えるようになります。どこまでやればトップにたどり着けるか自分の現在地も含めて見えるようになる。距離が明確になったのが大きかったと思います。これが通用する、これでは通用しないという感覚をみんなで持ち帰るので、その後の日常のトレーニングの質が変わるんです。実際にヤスさんからは、「次の日からガラッと変わった」と聞きました。

僕としては2021年頭に立ち位置やパススピードのことをU-18の選手たちに話していましたが、2022年も継続なので今年は個別でちょっと話をしたり聞いたりするぐらいで、全体に話すということは今年はありませんでした。それぐらいの関わり方です。でもヤスさんが言ってくれているのは、僕がその場にいるだけで雰囲気が変わる、と。自分は自分が行った時の彼らしか見ていないので、その変化はわからないのですが、彼らにとって何か良い効果があるのであれば嬉しいですし、これからもゲリラ的に予告なしで見ていきたいと思います(苦笑)。

2022年のU-18は2年生も元気でした。試合に出ている選手の数は3年生よりも多く、今年の快進撃を支えていたと思います。彼らとの関わりを話すとすると、2021年の冬のミーティングを思い出します。エイジさん(高田栄二・アカデミーヘッドオブコーチング)に「末長事務所で1年生に話をしてくれないか?」と言われて、当時1年生の子たちを対象にグループワークみたいな将来設計の話をする場所に参加したんです。一人ひとりが目標含めて自分がどうなりたいかをみんなの前で発表しました。みんなが話して、最後に僕が話す流れになったのですが、そのときに彼らに話したことは「みんながトップチームに昇格したいと言ってる。それは本当に素晴らしいことだけど、じゃあ実際に過去の歴史の中で毎年この中から何人がトップに上がってるか知ってるよね?本当に全員が昇格するって言うんだったら、まず自分たちの日常を変えなくちゃいけない。1年だから出られないのはしょうがないじゃなくて、学年は関係ない。開いていたとしてもたかが2歳差。プロに入ったら今以上に年上の選手、たとえば40歳の選手と一緒に鎬を削らなきゃいけない世界に入る。そこで生き残る覚悟を持って今から準備すれば、可能性はあるよ。そのために今日、今から意識は変えられる。みんなで上がって歴史的な代にすれば良いよね」といった内容です。その話が彼らに響いたかどうかは全くわからないですが、今年は2年生もめちゃめちゃ頑張ってくれました。いまから来年が楽しみです。

2023年はまたチームが代替わりします。2021年は3年生が多く試合に出ていましたが、当時2年の高井(高井幸大)や大関(大関友翔)、松長根(松長根悠仁)がいたので2022年は真ん中のポジションの選手が残っていました。フロンターレはやっぱり真ん中がとても大事なので、ここ2年センターラインでプレーしてきた選手たちが抜ける中で、誰が頭角を現すのかとても楽しみではあります。昨年も3年生が抜けることの不安がありましたが、よくよく考えると他のユースや高校でも同じ現象が起きるわけで、その差を他のチームよりも早い段階で埋めるという意味では、クラブのコンセプトやフィロソフィーが確立されていれば、新しくレギュラーになる選手もチームにフィットできる。毎年選手によって戦い方を決めてしまうと、その選手がいなくなったあとにまた再構築しなければいけなくなります。フロンターレはヤスさんをはじめ各カテゴリーの監督やコーチのみなさんが作り上げてくださるものがあるので、そこに新しい選手がはまって伸びていくことでチーム力が、フロンターレのカラーが継続されていくのかなと。それは去年、今年のアカデミーを見ていて感じたことです。

育成年代のチームはプロと違い自動的に選手が入れ替わるので、それこそチームの日常の空気感が大事になると思います。そしてこのクラブのスタイルははこれだというものがないと継続性がありません。例えるならば、秘伝のタレが入っている鍋を毎日ぐつぐつ煮込みながら、少しずつタレを継ぎ足していくイメージですかね。そうすれば誰が出てもフロンターレのスタイルは出せるようになるし、その上でそれぞれの個性を発揮して勝利に貢献し成長してほしいと思います。そしてトップチームへ。チームコンセプトの基準を提示して、選手同士で高めていけるような空気を作る。そうすれば、自然と自分たちでこうしようという流れになるわけです。もちろん指導者の提示、指示は絶対に必要なんですが、僕の現役時代、チームが優勝してからのフロンターレはそんな雰囲気でした。誰が何かを言うまでもなく、このレベル、ラインを目指す。そこにたどり着かないと試合に出られないよという、チームのなかでの明確な基準がありました。

それにしても、U-18プレミアリーグ1年目でリーグ優勝を達成するなんて本当に驚きでした。いい意味でこちらの予測を大きく裏切ってくれました。言い方を変えると、育成年代の選手の見立てという点で自分の見る目は甘かったのかなと。大変申し訳ありませんでした。プロの目線で見るとこれぐらい成長するかなと思っていたものを、彼らは平気で上回ってきました。ただ、逆にダメなときは全然ダメだったりします。この間はすごい良かったのに、今日は別人だ、みたいな。すごく変わりやすい時期でその振れ幅もすごい。それは育成年代に関わるようになってからすごく感じることです。JFAロールモデルの活動をしていても感じるんですが、彼らは体格も含めて容易に変わります。だから僕ら指導者の接し方がとても大事になると感じましたし、僕の場合で言うと、最初からプロ目線で見ることは良くもあり、危険でもあると感じています。選手それぞれに合った成長の仕方がプロよりも遥かに繊細なんですね。よくよく考えるとプロで一緒にプレーした後輩たちもそうでした。それでもこの2年でアカデミーの選手たちが見せてくれたことは自分の中で大きな財産になっていますし、スタッフ、選手のみなさんには改めて感謝したいと思います。ありがとうございました。

U-18は1年の流れができつつあると感じています。シーズン頭にトップチームと練習試合をやる。そこでトップレベルのレベルを体感する。その前の年も練習試合をやっているから、新2年生、3年生はその差が縮まっているかどうかがわかる。そして2022年に関しては高井、大関、松長根がトップチームのキャンプや練習に長期参加しましたよね。そこで得たものや感じたもの、そしてトップチームの基準をU-18に持ち帰ることで、U-18の基準が上がる。2023年はまたチームが変わり、プレミアリーグを優勝したことで周りからのマークが厳しいシーズンになるかもしれませんが、この流れ、このサイクルをぜひ継続して成長してもらいたいと思います。

僕個人の話としてはなかなか現場に行けていないですが、映像は毎試合チェックしているので、たまに来る口うるさいおじさんとしてチームに関わっているよということをアカデミーの子たちに知ってもらえれば(苦笑)。

これはフロンターレにとってとても大きなトピックスになりますが、2023年春には生田にU-12、U-15、U-18が同時に練習できる施設、「フロンタウン生田」がオープンします。これまではカテゴリーによって練習場所や練習時間がバラバラでした。これが僕がトレーニングに行き辛くなる原因のひとつになっていましたが、これで悩みは解消されるところがあります。隣のグラウンドで上のカテゴリーの子たちが練習することになるので、下のカテゴリーの子供達にとっては、見ることや一緒にプレーする機会もあるかもしれないので、彼らの基準が上がるチャンスでもありますし、育成年代全体の強化につながるはずです。僕もU-18だけではなくU-15、U-12と一度にアカデミー全体を見回れるし、コーチングスタッフのみなさんとも関われる機会がかなり増えると思います。これは僕的にも非常に助かりますし、とても楽しみです。

どんな形でもいいので、クラブの発展のお役に立てればと思っています。

(第3回に続く)

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