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中村憲剛が2022年を振り返る【第1回・中央大学サッカー部編】

皆様、こんにちは。中村憲剛です。
約1年ぶりとなりますが、中村憲剛の2022年を振り返りつつ、さまざまなことを経験させていただく中で感じたことをお話ししたいと思いま
す。

おかげさまで2022年も忙しく、そして楽しく過ごさせていただきました。

2022年もさまざまなチームやプロジェクトに関わらせてもらいましたが、大きなトピックスのひとつとして、関東大学サッカーリーグ2部で戦っている母校の中央大学サッカー部にテクニカルアドバイザーという形で関わらせていただいたことが挙げられます。2003年度卒業なので、19年ぶりに戻ってきたことになります。

正直なところ、中大サッカー部の練習自体へは定期的に行けたわけではなくて、行ける時に行く形で、春休みや夏休みといった多少時間に融通のきく期間に、A級の指導実践も含めて指導する時間を作っていただきました。行けない時は、毎日の練習やトレーニングマッチ、公式戦の映像は必ずチェックして、共に今年から就任した宮沢正史新監督と毎日のようにチームや選手個人の話について連絡を取り合っていました。

FC東京OBの宮沢監督は中大時代の2年上の先輩ですが、大学時代は僕から宮沢さんにくっついて、ずっとサッカーの話をしていた間柄なので、非常にコミュニケーションが取りやすかったですし、遠慮なく言いたいことは言わせてもらいました。僕としてはテクニカルアドバイザーというよりは半分コーチみたいな感覚でした。シーズンが始まる前のスタッフミーティングで、最初に宮沢監督からコンセプトの提示があり、その提示されたコンセプトが僕の考えるものと近いスタイルだったので、意見を出しやすかったです。もちろん、違ったスタイルならばそれもまた自分の引き出しになるので、その時は監督とコミュニケーションを取って全力で学ぶつもりでいました。実際には大学時代から宮沢先輩にサッカーについてかなり質問していたので、サッカー観はやはり近いものでしたし、近い分話が早く進むことも多かったです。

監督が代わるということはチームの体制が大きく変わることを意味します。宮沢さんと僕が新しく就任したことは、選手たちからするとある種の劇薬だったと思います。テクニカルアドバイザーのお話しをいただいてるなかで、昨季の中大サッカー部の試合映像をかなり観ました。いいところももちろんあったんですが、それ以上に自分の中で気になる点がありました。その点を最初に宮沢監督とディスカッションを重ねて共有していきました。僕が彼らに求めたのは、彼らの日常の基準を高くすることでした。ただ、レベルや環境含めて実際にやってみないとわからなくことも多くあり、監督が目標とコンセプトを提示して新チームがスタートし、少しずつチームを作っていくなかで、見えてきたものに対してまた話し合って、自分たちの理想の形に近づけるという作業を繰り返していきました。

今回のカタールW杯の日本代表において、大学サッカー経験者が26人中9人選出されています。Jリーグも含め、現在の日本サッカー界における大学サッカーの存在感は、年々増していると僕は思っています。つまり、大学はプロの予備軍に近いポテンシャルがあると思っていたので、僕らは最初からプロの目線・基準で彼らを見ていました。選手はびっくりしたと思います。これは反省点のひとつでもあるんですが、僕らの求める基準と彼らの基準にギャップがあったと思いますし、そのギャップにどちらもなかなか馴染めなかったのではないかと。それは今思えば当然と言えば当然なのですが。彼らはプロではなく学生であり、アマチュアです。プロ予備軍という目線で見ていたので、彼らがプロで活躍するにはどうアプローチすれば良いのかという思考回路でした。今思えば、プロでも少しずつ成長するものでもあったので、彼らに望みすぎてしまったなと申し訳ない気持ちもあります。

 互いに慣れない中でのスタートでしたが、彼らは今年の目標でもある「関東2部リーグ優勝・1部昇格」に向けてチャレンジしてくれました。少しずつ変化が起きていきましたが、その中でまず大きな影響を受けたのは4年生だったと思います。ここまで中大で3年間を過ごし、積み上げてきたものがある中で、最後の学年でいろいろなものが劇的に変わることになった彼らにとって、新体制に合わせていく作業は大変だったと思います。

志向するスタイルはそこまで変わらないんですが、求めたのは質の細かな部分と強度でした。現役時代、そして引退後の1年間を育成年代に携わらせていただいた中で大事にしてきたこと、それはボールコントロールの質とパススピードの速さでした。なので、まず選手には自分たちでその基準を上げて日常を変えていこうと話していました。そこが変わってくれば、立ち位置や判断など伝えられることが増えていくからです。そう伝えて、すぐに反応できる選手もいれば、理解はしているけれどなかなか表現できない選手など、部員の中で色々な反応が起きました。全員が前向きに積極的に取り組んでくれていましたが、その中で4年生は3年間培ってきたものがある分、チャレンジしてくれてはいたものの、戸惑いは間違いなくあったと思います。逆に若い選手、1年生あたりは入ったばかりなので、彼らにとっては僕らの提示が日常になります。戸惑いがない分、すんなり頭に入ってきて、それが日常になるのは早い印象でした(ただ、彼らは彼らで高校・ユースとはまた違う強度や質の中でやるカテゴリーが上がることによるの戸惑いは大いにありました)。


前期は試合に出る4年生の数が少しずつ減り、若い選手が頭角を現すようになりました。4年生に対する思いもあったので頑張ってほしい反面、そこは学年関係なく競争し、チームを勝たせる選手が出るべきだと思っていたので、この世界においては致し方ないところはありました。ただ僕としては当時の自分の経験上、大学サッカーは4年生がとても大事であり、4年生がまとまらなければ絶対に結果を残せないと考えていたので、この大変な状況下でも彼らの奮起にずっと期待していました。

 と、ここまで偉そうに書き連ねてきましたが、選手からすると僕はたまにしか練習に来ないのに、来たら来たで厳しいことを言ううるさいおじさんだったのではないかと思います(汗)。

2021年は中学生や高校生の年代を見てきて、見ない間にこんなにガラッと変化するんだと感じました。一方で大学生はある程度できあがっているプロ予備軍というイメージだったので、そこまで変化はないのかなと勝手に思っていたのですが、この年代でもかなり変わるんだなとこの1年間で実感しました。

2021年の年末、ちょうど去年の今頃ですかね。お仕事で中央大学サッカー部の後輩たちへという形で講演をすることがあって。先ほど上述したように、自分の実体験から当時の3年生、今の4年生ですね。彼らに新チームの4年生が大事だよ、4年生がしっかりしないと勝てないよという話をしたんです。そして、彼らはシーズン前に自分たちでミーティングをして、目標を定め決意を新たにして臨んでくれました。でもその4年生がなかなか試合に絡めなくなったり、出られなくなったりする上に、彼らには更に就職含めて卒業後のことも考えなければなりませんでした。その中で、調子を崩したり、元気がなかったりと、4年生それぞれがチームの目標と自分のこのチームにおける立ち位置に日々向き合って過ごすことは本当に苦しく大変だったと思います。これはこの年齢で自分の行き先を決めなければならない、大学サッカーならではの現象だと思います。

その状況に胸が痛かったところはあるものの、指導者としては学年関係なくトレーニングで良いプレーをした選手にチャンスを与え、チームでやるべきことを表現した上で、自分の個性を発揮しチームの勝利に結びつけられる選手が試合に出るスタンスは変えてはいけないと思って監督と話をしていました。しかし、これも宮沢監督との反省点のひとつでしたが、このスタンスをメンバーが固まらないうちに通しすぎてしまうと、選手の中にやる気だけではなく不安も生まれてしまうこと、さらに不安が大きくなることでプレーが消極的になってしまうこと、要はうまくできなければ変えられてしまうのではないかという発想です。選手たちからすればそんなことは思ってないと言うかもしれませんが、ほぼ毎日練習、試合の映像を見ている人間からすればそれはわかるし、そこには公式戦の成績や就職のことも考えれば彼らの抱えているプレッシャーは先輩としてよく理解できるものでした。シーズンが進む中で、一時期は3年生がキャプテンをやったこともありました。起用してはうまくいかなかったり、怪我もあったりして、再び4年生が中心になってチームが固まってきたなと思えたのは9月半ばぐらいでした。

前期序盤は勝てなかったものの暫定首位で折り返し、迎えた後期序盤はなかなか勝てず順位を落とした中で、勝負どころの試合で再びメンバーに入ってきた4年生が中心になって勝利を収めました。その勝利からメンバーも固まっていき、そこから7連勝リーグを終え、最終戦の勝利を持って彼らの目標である「2部優勝・1部昇格」を果たすことができました。リーグ最終節を配信で見ましたが、心震えました。この1年間の4年生をはじめとしたみんなの頑張りに接していた人間として、感動しました。4年生の頑張る姿が下級生を引っ張り、チームとしてより一体感が増し、まとまってくる。やっぱり4年生だよねと。彼らは僕の言葉を覚えてないかもしれませんが(苦笑)、この1年彼らを見続けて改めて4年生の役割の大きさを感じましたし、彼らは自分たちでそれを体感したと思います。また、3年生以下にも1部昇格だけではなく、大きな物を残したと思います。

この1年間、僕自身も学ぶことが本当に多かったですし、彼らにいいものを見せてもらいました。現場にいることはそこまで多くなかったですが、自分としては1年を通してチームの中にいた感覚でかけがえのない経験をさせてもらいました。宮沢監督とずっと話をしながら、チームマネジメントの1年の流れを見ることができたのは大きかったです。現場で選手とずっと一緒だったら得るものが更にあったと思いますが、それでもたくさんの学びがありました。昨年1年間育成年代を見てきた中で大事だも思っていたことは大学サッカーでも大事なんだなと改めて感じました。

テクニカルアドバイザーとして招いてくださった佐藤健GM、宮沢監督はじめ中央大学サッカー部の選手、スタッフのみなさんには本当に感謝しています。関東大学サッカーリーグ2部優勝・1部昇格という結果が出たのはもちろんですが、それ以上に選手たちが新しい体制による変化に前向きに全力で取り組んでくれたことが本当に嬉しかったです。「くそっ!」と思ったときもたくさんあると思うんです。当然ですよね。彼らは彼らでずっとやってきたことがあるんですから。それでも1部昇格という目標を立てて、そこに向かって4年生を中心に下級生もスタッフもマネージャーさんたちも一丸で頑張ったと思います。こうして指導者として中大サッカー部に関わらせてもらい、僕としても引き出しがたくさん増えました。宮沢監督をはじめサッカー部関係者の皆様、改めてありがとうございました!

(第2回に続く)

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