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中村憲剛の2021年下半期振り返り&この1年で感じたこと(中編)

次に指導者としての活動です。

この1年色々なところで指導実践したり、指導の現場を勉強させていただき感じたことですが、改めて指導とは場数だなと。指導者は見れば見るほど、指導すればするほど経験値が上がるものだと実感しました。

フロンターレのアカデミーの方にも不定期ですが、練習や試合を観に行かせていただきました。アカデミーのスタッフのみなさん、選手のみんな貴重な機会をいただき本当にありがとうございました。1月に観に行き出して、1年間継続的に育成年代の子たちを追いかけきましたが、正直ここまで変化するものなのかと驚きました。それはU-17日本代表でも同じでした。

育成年代の子たちは反応が良くも悪くも早いので、自分が思っている以上に変化が早いですし、その変化も様々でした。なので、自分が携わった時のトレーニングの内容や声かけのところで何を伝えるか、何を獲得してもらうのか。その責任はとても重大だなと実感しました。一回きりのサッカー人生、出会う指導者で選手の運命が変わることは自分のキャリアでもたくさん経験してきました。彼らにとって自分の存在が少しでもプラスにならないといけないなと改めて感じました。

トレーニングの中で、選手の立場からすれば瞬間瞬間のワンプレーをいかに成功させるかが大事になります。でも、指導者はその選手のワンプレーの正解だけではなく、うまくいかない現象もどれだけ出してあげられるかも重要なのだなと感じました。選手が成功することによる気づきや、失敗することで得る成長へのヒントやきっかけを、トレーニングのオーガナイズや内容でどう与えられるかを考える。成功するプレーを導くだけではなく、意図的にミスを誘発しやすい状況を作ることで、獲得できるものの厚みを作るという考え方は今までなかったので、これはとても勉強になりました。

現役の時を思い出すと、難易度が比較的易しく、うまくいきやすいトレーニングももちろん楽しいのですが、それよりも難易度が高く、ミスの出やすい練習の方がストレスは溜まるけど、その分限定された状況の中でよりうまくやるために考えてプレーしましたし、そこでうまくいった時の充実感とうまくやるヒントを獲得できた時の高揚感の方がより成長に繋がったなと。

また声かけのところですが、これもとても大事だなと改めて思います。というか、ここはとても深いなと。瞬間瞬間で選手に声をかけることを後悔することはそこまでないのですが、伝えた後に選手によっては「これはちょっと言い過ぎたかな」と思うことはあります。選手の表情やその後のプレーを見れば自分の声がけがどちらに影響したかはある程度わかるので、ネガティブにはならないように気をつけてはいるのですが、選手たちひとりひとり、性格や考え方など当たり前ですが何から何まで違うので、ちゃんとその選手に合った声がけを考えないといけないなと思います。

自分が思っている以上に指導者の声は選手たちにとって割合が大きいモノだと改めて感じていますし、指導者と選手は真逆の立場なので、慣れの問題かもしれませんが…。指導者1年目の人間にとってそこは悩みが深いです。

2021年に引退してすぐにC級ライセンスを取得した後、B級ライセンスの指導者講習会に行きました。講習会自体は4泊5日の前期と後期、2泊3日の試験の計3回で構成されています。また、各期の間に講習会で得たものを現場で実践したり、テーマに沿った指導案を作成して実践したり、eラーニング、レポートなどの座学を含め1年間で様々な角度からみっちりと指導者としてのスキルを上げるものでした。

講習会では自分が指導者役としてトレーニングメニューを作成し、自分以外の受講者の方たちにプレーヤーとしてそのメニューをやってもらうという指導実践を前期・後期2回の講習会の中で複数回実施し、試験に臨みました。当たり前ですが、現役時代にトレーニングメニューを作成する経験はなく、初めての経験でしたから講習会の時は毎日遅くまで考え悩んでいました(苦笑)。自分が与えられたテーマで、プレーヤーに何を獲得させるのかを考えた時に、自分のメニューのさじ加減ひとつで全てが決まってきますから。ただ、そこに関しては、自分が現役時代に経験したメニューがかなり活きました。

実践指導では、くじで指導者役をする順番を決めます。その順番が意外と指導実践に影響したなと思いました。受講生20数人が午前、午後かけて、もしくは午後と次の午前にかけて順番に持ち時間の中でやるので、かなりの負荷がかかります。また当然ですが、みんなが真剣に指導するで受講生のプレーヤーとしてのクオリティが上がり、そのグループ全体で積み上がっていくので、自分が指導実践をする順番によっては、みんなの疲労度やクオリティなどを考慮した上でオーガナイズ(サイズやルールなど)を微調整するという作業もよく考えなければいけませんでした。

指導実践では、その場でトレーニングを止めて話をする「フリーズ」や、プレーしながらその横で声をかける「シンクロ」などでコーチングをしていくのですが、与えられたテーマで何を伝えるかは当然変わるので、大事なことはそのトレーニング内で、個人もしくはグループに起きた現象をしっかりと把握し分析できる目を持つことと、その現象を指摘して改善を促せるコミュニケーションの取り方なのかなと思いました。

自分のトレーニングでも当然ですが、うまく行く時と、そうじゃない時がありました。そうじゃないことが頻繁に続いた時は僕のオーガナイズが悪いわけですし、メニューを考えた自分の責任なので、状況に合わせて難易度を変更したり、トレーニングの範囲を広げたり狭めたりしなければいけません。そこは指導実践後、毎回反省していました。

現役時代、トレーニングをしていて「このメニューをやるにはちょっとエリアが狭いぞ。難易度高いな」と思っても、そのオーガナイズを変えるのは当然僕ら選手ではなく、監督のオニさん(鬼木達監督・川崎フロンターレ監督)やコーチであるシュウヘイさん(寺田周平・川崎フロンターレ トップチームコーチ)たちでした。オニさんたちからすればそのオーガナイズで僕ら選手たちに獲得させたいものがあるので、そのサイズやルールでまずやってみて、そこで出た現象によってサイズを変えたり、ルールを付け足したりと柔軟に微調整していた記憶があります。選手側からすると、指導者が全て設定をしてくれるので、そこはある意味受け身でした。

しかし、自分が指導する側になって設定を決める、変化をつけることができる立場の自分が、そのトレーニングの最中に動かなければ何も変わらず、選手がそのメニューをただこなすだけの時間になってしまう、ということに指導実践中に感じ、指導者の果たす役割の大きさに少し怖くなりました。そういう意味では、自分は指導者として細部だけではなく、全体をしっかりと観ることが大事であり、その中で選手たちが積極的にプレーできるようにその時の空気感や雰囲気をしっかりと見た上で柔軟に変化させられる感性が必要なのだなと感じました。その点は、去年まで指導者目線でトレーニングをしたことがなかったので本当に刺激的でした。むしろ、指導者側の目線を現役時代に持っていれば、選手として幅と深みが増した気がしています。時すでに遅しですが(苦笑)。

また今回の講習会では、受講生の方は元Jリーガーの方や、学校の先生の方や町クラブのコーチ、Jリーグのスクールコーチなどほんとにみんなの職種がばらばらで、僕にとってその環境はとても良かったです。さまざまなバックボーンを持った、まったく違う環境でサッカーをやってきて指導者になった方たちと時にはまじめに、時にはたわいもない話を織り交ぜながら、実践メニューを決める時間がすごく新鮮でした。僕が年長者の方だったので付き合わせたと言った方が正確かもしれませんが(笑)。

僕が現役時代に教えてもらった指導者はクラブ、代表合わせて9人でしたが、今回の講習の受講生だけでも20数人、またフロンターレのアカデミーの指導者の方たちやU-17日本代表の指導者の方たちを含めると、今年1年で数多くの指導者の指導に触れてきました。当然ですが、それぞれ考え方が違っていて言い回しも違うのでその全てが勉強になりましたし、みなさんから学ぶもの、得るものがたくさんありました。現役時代に選手として得難い経験はたくさんしましたし、それはもちろんアドバンテージであるとは思いますが、それが指導者としての器量や技術に直接結びつくかと言ったら必ずしもそうではないなと講習会にきて改めて感じました。やはり何事も勉強です。

正直、体はキツかったですが、めちゃめちゃ面白かったですし、受講生やインストラクターの方々、補助学生のみんなも良い方たちばかりで充実した時間を過ごすことができました。講習会では指導者としての瞬発力が求められるので、その経験値は多少なりとも上がったのかなと。そして、フロンターレアカデミーやU-17日本代表、ケンゴアカデミーにて講習会で学んだことを実践し、そこでの得たものや課題をまた講習会で生かしていくというサイクルで1年間過ごせました。

引退後1年目にして、濃密で充実した体験を数多くすることができて本当に良かったと思います。

(後編に続く)


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