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中村憲剛が2021年上半期を振り返る(前編)

皆さんこんにちは。中村憲剛です。

現役プロサッカー選手を2021年1月1日に引退してから約半年がたちました。あれから日々の生活リズムや取り巻く環境が激変し、今も新鮮な毎日を送っています。

そこで今回、この川崎フロンターレnote部の場をお借りして、私、中村憲剛の2021年上半期を振り返ってみたいと思います。

2021年1月1日の天皇杯決勝が終わってからゆっくり休んだのでは?と思われる方も多かったかもしれませんが、実際は1月7日、8日ぐらいから新社会人として「仕事」を始めていました。そういう意味では現役が終わってゆっくり休んだ感覚がないまま新社会人生活に突入したので、しっかり切り替えてと言うよりも、徐々に慣れていった感じです。

スケジュールも、18年という長い期間過ごしていたクラブの管理下から、元々所属しているマネジメントの管理下に移行したので、お仕事をいただけなければ当然ですが、スケジュールは真っ白になります。それと同時に自分次第で空けようと思えば空けることができます。ただ、特別な家族の用事以外は空けたくないなと思っていました。

正直なところ、この生活がスタートした頃は、3ヶ月後にはスケジュールが真っ白になってしまうだろうなと思っていたんです。引退した直後はいわゆる「引退バブル」みたいなのものがあって、でも、それが過ぎたら徐々に需要がなくなっていくのかなと思っていました。でも本当にありがたいことにここまでは継続してお仕事をいただけていて、毎日いろんな形で予定が入っています。これは白紙に怯えていた自分からすると本当にありがたいことです。

改めて、オファーを下さった皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

もう現役のサッカー選手ではないので、ピッチ上のプレーで自分を表現する機会はなくなりました。現役時代と引退後の最大の違いは皆さんにプレーを見てもらえる場がなくなったことだと思います。今はサッカー選手という肩書きがないですから、サッカー番組や解説者としてメディアに出演させてもらうときは「中村憲剛」個人で挑まなければいけません。逆に皆さんからは僕の活動はどう見えているのでしょうか?気になるところです。たまに中村憲剛「選手」と言われることがあるので、いまだに違和感がある方もいるかもしれません。

現役を辞めてから、いろいろな肩書きをいただきました。

まずFRO(フロンターレ リレーションズ オーガナイザー)。それから日本サッカー協会のロールモデルコーチ、JFA登録制度改革本部「JFA Growth Strategist(グロースストラテジスト)」。またミズノブランドアンバサダー、Anker特別アンバサダー、サッカーゲーム「EA SPORTS™ FIFA MOBILE WORKOUT CUP」アンバサダー、中高生向け栄養機能食品「NOBIACE(ノビエース)」の広告モデルなどをやらせてもらっています。

スケジュール的には現役時代より忙しいときもありますが、肉体的な負荷は少ないです。当たり前ですが、日々練習をやって試合に臨んでいたときの方が体的にきつかったです。練習や試合後のダメージ(痛み、疲労)もないので、リカバリートレーニングをする必要もありません。ただ、頭と口は現役時代以上にフル回転させています。今はそこでしか勝負できないので。

現役時代ああしておけば良かったという後悔はほぼありません。サッカーをやり尽くして終わることができました。あれ以上の幕引きはなかったと思います。

僕自身もそうですし、チームのことを考えたときもそうです。リーグを優勝し、現役最後に天皇杯で優勝することができて、未練を引きずることなく次のステージに進むことができました。この18年の間、他のチームに移籍するという考えはまったくなかったですし、自分が他のチームでプレーするイメージも思い浮かびませんでした。

大卒でプロになって18年間プレーできたので、キャリアとしては万々歳だと思います。しかも最後の5年間は自分で言うのもなんですが、本当にすごかった。自分が決めたリミットに向けていろいろなことが良い方向に進み、クラブが躍進し、後輩たちも成長し、自然と「もう引退しても大丈夫だな」という形になりました。

だからこそ、その5年の中で今度はクラブを永続的に強化し続けるための取り組み、育成が大事だと思うようになりました。

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引退発表をしてから引退するまでの間、自分の今後に関してをクラブと話し合いを続ける中で、引退後は主に育成に携わりたいという自分の考えを伝えました。いま、トップチームが何をやっているのかをリアルに知っている人間として、それをより多くのアカデミー生に伝えられるように、すべてのカテゴリーを見られる形にしてくださいとお願いしました。

クラブとして結果が出ている今のうちに、いろいろなことを進めておくことが大切だと思います。僕自身もトップチームから降りてきてすぐなので、鮮度のある経験を伝えられるのは今しかありません。これが2年、3年とたっていくと、僕自身の感覚が現役ではなくなっていきます。影響力という意味でも、今ならまだ中村憲剛の名前が効くかなと(笑)。

何の根拠もなく育成に携わりたいと伝えたわけではありません。自分がチームである程度の立ち位置になった頃から、多くの後輩たちに色々な種類のアドバイスをしてきましたが、彼らが成長していく中でいろいろと思うこと、感じるものがありました。

彼らに伝えている内容(主に、ボールを「止めて蹴る」技術やポジショニング、前を向くことの大切さ)はプロだから必要なのではなくて、育成年代から必要なのではないかという確信に近いものが自分の中に生まれました。

もちろん、全てが正解ではないとは思いますが、育成年代の選手たちにこのアプローチをすることで、可能性が少しでも広がるんじゃないかと。30歳を過ぎたあたりからそう思うようになり、その気持ちが1年1年大きくなっていきました。

その中でも練習を見る回数が多いのは、やはりトップチームに一番近いU-18です。今では試合に出ているアカデミーの選手は大体把握しています。ただし、それぞれのチームには監督やコーチがいて、U-18であればヤスさん(長橋康弘・U-18監督)、ベティさん(久野智昭・U-18コーチ)、ヒデちゃん(佐原秀樹・U-18コーチ、ガミさん(浦上壮史・U-18GKコーチ)たち指導者の先輩方がいらっしゃるので、チーム方針に沿った中で自分が大切だと思うことを選手に伝えるようにしています。

とはいえ、引退したあとに今回のような携わり方をする人間はいなかったと思うので、自分も自分の立ち位置をどうするべきか悩みました。あとは、スタッフのみなさんや選手たちにどう受け入れてもらえるのかも不安でした。

でも、1番最初の練習を観に行った時に、ヤスさんはじめスタッフのみなさんが「何か気づいたことがあったら、どんどん言っていいからね」と言ってくれたことがとても大きく、また選手たちも真剣に自分の話を聞いて実践しようとしてくれたことで、自分の中でも立ち位置が定まり、いまは遠慮なく話をさせてもらっています。

改めて、受け入れてくれたスタッフのみなさん、アカデミーの選手たちには本当に感謝しています。行ける頻度はそこまで多くはないのですが、行くたびに色々な姿が見れるので、本当に楽しく見させてもらっています。

(後編に続く)


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