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【Voice!】川崎フロンターレU-18長橋康弘監督インタビュー


「高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ 2022」で参入1年目にしてプレミアリーグEAST初優勝を果たした川崎フロンターレU-18。12月11日(日)のプレミアリーグFINAL(国立競技場)を控えるチームを率いる長橋康弘監督に話を聞いた。

──まずはU-18プレミアリーグEAST優勝おめでとうございます。プレミアリーグ参入1年目で初優勝を成し遂げました。まだ一発勝負のFINALが残っていますが、2022年はどんな1年だったと感じていますか?

「クラブとして初めてのプレミアリーグへのチャレンジということで最初は手探りだったんですが、相当なレベルというのは想定していました。ただ、U-18プレミアリーグという日本の最高峰のレベルで試合ができるということで、選手たちのもっとレベルアップしたいというモチベーションがトレーニングから見て取ることができたんですよね。プリンスリーグからプレミアリーグに上がって、ステージが変わるとここまで意識が変わるんだと感じました。だから特別なことをしたというよりは、もっとうまくなろう、とにかくチャレンジしていこうという話をずっとしていたら、選手たちが自然と伸びていった印象です」

──育成年代の選手は意識の持ち方で大きく変わるものなんですね。

「はい。去年(2021年)からシーズン開幕前にトップチームと練習試合をさせていただいているんですが、そこで選手たちが一気に変わったのを覚えていて、今年頭にも練習試合をやらせもらって、それを境に彼らの意識がだいぶ変わったんですよね。本当のトップレベルの技術の基準というんですかね。ボールを止めて蹴るがちゃんとできていたつもりが、それは止まっていないんだよ、ちゃんと蹴れていないんだよということを選手が肌で感じることができました。またトップチームの協力で練習参加させてもらった選手たちが、トップチームで経験したものをU-18に戻ってから周りに落とし込んでくれたので、本当にいい循環だったと思います」

──U-18プレミアリーグは年間を通しての戦いですが、トップチームに練習参加したり代表に呼ばれる選手がいてメンバーが揃わない時期もあったと思います。そこは選手をやりくりしながらの総力戦だったんですか?

「そうですね。ただ、そこでチャンスをつかむ選手が、トレーニングの段階から目の色を変えてやってくれるんですよ。その姿を見た1年生や出場機会に恵まれていない選手たちが、頑張っていればチャンスがあるんだ、チャンスがきたときに結果を残すために何をすればいいかと考えるようになる。今の3年生が本当によくやってくれるんです。それこそ選手自身の意識の持ち方ひとつで、1人ひとりもそうですしチームとしてもよくなってきたのかなと。ですから選手のやりくりに関して不安はなかったです。絶対にやってくれるという思いがあったので」

──プリンスリーグからプレミアリーグに参入して、選手のレベルや対戦相手の違いを感じましたか?

「シンプルに1人ひとりの技術レベルが高いですし、攻守においての強度、インテンシティがかなり高くて、正直なところ私がイメージした感覚よりも強かったです。これはかなりレベルが高いなと。ただ、開幕からチームが勝っていくにつれて、選手たちが自信をつけていきました。消化する1試合1試合で対戦相手から学びながら成長した感覚です。プレミアリーグは対戦相手の分析からはじまって、相手の良さを消しながら自分の強みを出していくという、大人に近いサッカーをする印象があります。とくに二巡目の対戦からは順位も気にしながら、フロンターレはこういうサッカーをやってくるだろうと想定して前期の対戦とは全然違う戦い方をしてくるチームが出てきたり。そこはプロと同じですよね。この1年間で選手たちは本当にいい勉強をしたんじゃないかなと思います」

──今年のチームが掲げているテーマやコンセプトはどんなものですか?

「サッカーに関しては、とにかくトップチームに近づこうと。彼らが目指すところはトップチームでプレーすることで、プロになるだけではなくてそこで試合に出ることを目標にしていて、高校生でも試合に出られるんだぞという話をしています。そのレベルを見据えていかなければならないですし、そこはぶれてはいけないです。あとはやっぱりフロンターレらしいサッカーをする、結果にもこだわりながらという、トップチームと同じコンセプトを持ちながら取り組んでいます」

──トップチームに練習参加しているU-18の選手を見ると、数年前と比べると今の選手はわりとスムーズにトレーニングに入れている印象です。

「それはありがたいですね。逆にいうと、練習参加した選手がトップチームのレベルに入れないことが起こらないようにしなければいけないです。トップチームでやっているトレーニングを自分たちなりに研究しているんですが、そこで鬼木さん(鬼木監督)や寺田コーチ(寺田周平)がわかりやすくいろいろ教えてくれるんですよ。トレーニングメニューや手順だけではなくて、なぜそこにこだわるのかという意味も教えてもらって、選手がトップチームにいったときに困らないようなトレーニングを作っているので、そのあたりでトップチームとアカデミーがうまくつながってきたのかなと感じています」

──2023シーズンはU-18から高井幸大(すでにプロ契約締結)、大関友翔、松長根悠仁の3名がトップチームに昇格します。アカデミー全体で取り組んできたことが成果として表れてきています。

「そうですね。ボールを止めて蹴る、運ぶ、外すといったフロンターレらしさをぶれずにやっていくためには、ジュニアの世代から積み上げていくことが重要です。U-10はU-12につなげる、U-12はU-15につなげる、U-15はU-18につなげる、そしてU-18はトップチームにつなげると。今ここがしっかりできていると思うので、カテゴリーが上がってもしっかりできる状態の選手が多いです」

──アカデミーとして目指すレベルも年々上がってきて、トップチームに上がるだけではなくて、すぐに活躍できるかどうかという段階に入ってきたのではないでしょうか。

「そうなんですよ。おっしゃるとおりです。最初はトップチームのレベルに迷惑をかけない状態で選手を送り出さなきゃと思っていたんですが、試合に出て活躍することを目指さなければいけません。選手の伸びしろを私が止めてしまうことがあっては絶対いけないです。だから試合に出ていいんだよ、そこを目指さなきゃというのは高井にも話しているところです」


──板倉滉や三好康児、三笘薫、田中碧といったアカデミー出身の選手たちが海外に出てプレーする時代になりました。アカデミー出身者のワールドカップの活躍を見て、刺激を受けているアカデミー生も多いのでは?

「本当にそう思います。アカデミーから巣立った選手がワールドカップの舞台に立っているのを見て、彼らの活躍がU-18の子たちの意識をさらに変えてくれました。ただ、ワールドカップ以前でもU-18の子たちの変化は明らかだったんですよ。先輩たちの活躍が、間違いなくアカデミーの子たちの意識を高めてくれました。また今代表で活躍している選手のアカデミー時代を見てきたスタッフも多いので、彼がアカデミーの頃はこういうことをやっていたよと伝えることができるのは大きいですね。ただ時代は変化しているので、それ以上のことをやらなければいけないんですが」

──U-18のコーチングスタッフは長橋監督をはじめ、久野智昭コーチ、佐原秀樹コーチ、浦上壮史GKコーチと、現役時代フロンターレでプレーしクラブの歴史を見てきた人たちばかりです。コーチ陣全体としても経験を積みながらレベルアップできているのでは?

「そうですね。クラブのコーチングスタッフはずっと一緒にやってきた仲間で、いまやフロンターレはJ1で優勝を狙うチームですが、私たちが現役の頃は苦しい時代もありました。その当時を知るみんなと一緒にできるのはすごく大きいです」

──長橋監督個人としてもフロンターレの育成年代の指導歴がかなり長くなってきました。

「トップチームに昇格して活躍している選手、ワールドカップで活躍してくれた選手。恵まれたことに私は彼らをアカデミーで見させてもらったんですが、彼らに共通していたのは強い意志、プロになるんだっていう強い覚悟でした。まず強い意志を持たなければ未来を切り拓くことはできないというか、強い意志を持ったら今度はクリアしなければいけない課題が見えてきて、そこで本当に本当に努力して乗り越えていく。苦しいときでも諦めずにやってきたのが、彼らに共通している部分だと思います。自分がなりたい未来に向かって強い意識を持つこと。それはアカデミーの子たちだけではなく、私自身も教えてもらったことです」

──最終的には本人次第だと思いますが、そこで選手たちをうまく手助けして成長をうながすのがアカデミーの指導者としての最大のテーマでしょうか。

「本当にそう思います。そのときの状況で、下を向いて自分の可能性を信じられなくなる子っていると思うんですよ。だけど今トップレベルで活躍している選手たちも、ずっと調子がよかったわけではないんです。うちのアカデミーには可能性がある子しかいないと思っているので、そこは負けずにやってほしいなと思います。下を向いているのはもったいないよって。今のアカデミーの選手たちって、私の子どもの頃と比べると段違いに才能がありますからね。その才能をちょうだいよって思います(笑)。ですから繰り返しになりますけど、自分自身で強い意志を持ってぶれずに続けられるかだと思います」

──トップチームからアカデミーとクラブ全体としていい流れが作られてきているので、これを今後にどうつなげていくかが大きなテーマですね。

「そうですね。プレミアリーグ参入1年目でリーグ優勝したのは素晴らしいことなんですが、やっとトップチームの戦いに近づけたと思っています。トップチームは勝って当たり前と周りから見られていて、そのプレッシャーとも戦わなければいけないですよね。だから私たちもプレミアリーグEASTで優勝したということで、今後はまた違った戦いになってくると思っています。今年に関しても二巡目で、相手がこうやって自分たちのよさを消してくるんだな、トップチームはこういう試合をやっていたんだなと感じました。ようやくそのステージにいけたかなというところで、これからトップチームに近づくための戦いがはじまるなと感じているところです」

──近年アカデミーにも注目度が高まっています。今シーズンもコロナ禍で難しい状況が続くなかで、大勢のサポーターに応援していただきました。

「本当に感謝しています。リーグ優勝を決めたFC東京U-18戦の得点シーンなんかはサポーターの皆さんの目の前でゴールに吸い込まれるように決まって、私もどうやって入ったのかわかりませんでした(笑)。サポーターの皆さんに注目をしてもらえることで、試合だけではなくトレーニングの段階から選手の活躍したいという気持ちが前面に出ているんですよね。本当にサポーターの皆さんからパワーをもらった1年だったなと感じています。その応援に対する感謝の気持ちをプレーや結果で返せるように、今シーズンに関しては残り1試合ですが選手にはとにかくすべてを出してほしいなと思っています」

──では最後に、12月11日(日)のU-18プレミアリーグFINALに向けての意気込みをお願いします。

「選手たちはこのメンバーでの最後の試合になるので、絶対に悔いだけは残してほしくないです。リーグ最終節は結果が出ませんでしたが(プレミアリーグEAST最終節 ●川崎U-18 1-2 青森山田)、例えばあの試合の前半のような戦いをしたら、選手は後悔しか残らないと思うんですよ。プレミアリーグEASTで優勝して国立競技場という素晴らしい舞台で戦える権利を勝ち取ったので、1年間積み上げてきたことをすべて出しきるための準備をしなければいけません。この1週間で何かが大きく変わるということではなくて、とにかく悔いが残らないように、積み上げてきたものを全部出すと。フロンターレらしいサッカーをやってほしいなと思います」

長橋康弘(ながはし やすひろ)
1975年8月2日生まれ 静岡県富士市出身
1994年に清水エスパルスでプロのキャリアをスタートさせ、1997年に当時JFL所属た川崎フロンターレに加入。中盤右サイドのレギュラーに定着し2006年まで現役でプレー。2007年よりフロンターレで指導者への道に進んだ。

■指導歴
2007年〜 川崎フロンターレ育成・普及コーチ
2008年〜 川崎フロンターレU-10コーチ
2010年〜 川崎フロンターレU-12コーチ
2013年〜 川崎フロンターレU-18コーチ
2018年〜 川崎フロンターレU-18監督

(2022年11月4日取材・麻生広郷)

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